「なんかウルド遅いな…。大丈夫かな?」


イオは一人で荷物の周りをうろうろしていた。
行ったきり帰ってこないウルドが心配で仕方なかったのだ。



無意識の内にウルドからのネックレスを握っていた。
いくら旅人といえどイオは夜の森が恐かった。一人旅の時は極力森での野宿を避けていたほど。




「やっぱ嫌だな森は…」


先程から零れるのは独り言ばかり。ウルドがこの場にいないのだから必然的に独り言になってしまう。



訪れる静寂。
この闇の中、手元の灯りだけが頼り。


つい周りの物音に敏感になってしまう。風で草木が騒めく音だけで驚いてしまう始末だ。







「……何か聞こえる」


イオはびくっと立ち上がった。
段々近づいてくる何かを引き摺るような音。



ゆっくりと、しかし確実にこちらに向かってきている。



「ウルドでありますように…」


小さく祈り、傍らの剣を引き抜き構える。


もしこの足音がウルドではないのなら、非常に危険な状況。


息を殺し、身を構え、相手の動きを伺う。




迫り来る足音はちょうどイオの近くの茂みの辺りで止まった。




暗闇で紅くちらつく何か…。ウルドの瞳、または魔物の瞳。


もしこの紅の瞳がウルドの物なら、名を呼べば返事をくれるだろう。





「…ウルド?」


恐る恐る茂みの後ろの暗闇に問う。




…返事がない。




「……魔物っ」



イオは近くに落ちていた石ころを茂みに投げた。




「グルワァァァッ」



忌々しい鳴き声と共に姿を現したのは狼の様な魔物。鋭い牙を覗かせた口からは涎が零れている。