小さな部屋に、二つのベッド。部屋の中央に置かれた花瓶には白い一輪の花がささっている。


「いい部屋だね。落ち着いた雰囲気だし、ベッドはふかふかだしさー」


ご機嫌な様子のイオは、上着を脱いだラフな格好になりベッドではしゃぐ。


「イオは面白い奴だね。
一人でもこうやってはしゃぐのか?」

イオの隣のベッドにあぐらをかいているレオナに尋ねられ、イオは照れ隠しに笑ってみせる。


「まさかー。
一人じゃこんなにはしゃがないよ。


ついこの間まで私、仲間がいたから…たぶん癖みたいなもんかな?
その人の笑顔が見たくって、私いつも馬鹿ばっかりやってさ…」


どこか淋しそうな色を見せるイオの強がりな笑み。
ウルドがいない悲しみを紛らわすように笑うこと。そうでもしなければ自分は簡単に壊れてしまうと思ったから。



「やっぱりな…」

納得したように頷くレオナにイオは不思議そうな顔をする。


「…?
何がやっぱりなの?」

尋ねるイオに、レオナは穏やかに頬笑む。それは幼い子供に向けるような優しい笑顔。でも、それは哀愁も含んでいて、どこか切ないものだった。




「何って…イオに旅の仲間がいたことだよ。

あたし変だと思ったんだ。
あんた地図読めないし、独り言は多いし、それに……何より笑顔が淋しそうだった。
本当に一人旅なのかって不思議だったんだ」


レオナの言葉はイオの核心をつくものだった。


「私の強がり…レオナは気付いてたんだね」


イオはおどけるように笑った。その深緑の瞳には薄らと涙が見える。




「イオ…悲しいときは無理して笑うもんじゃない。思う存分泣きな。
その方がすっきりする」


イオの涙に気が付いたレオナはイオに諭すようにそう言った。

心のわだかまりを解くようなレオナの静かな優しさに、イオは泣いた。大声を上げて、子供のように泣いた。