徐々に活気を増す朝の商店街。閑散としたこの広場にもじきに人が集まるだろう。



「貴様の生きる意味など関係ない。
俺は貴様を狩る…それだけだ」


男は一思いに大剣を抜こうとした…が、腕が動かない。

見えない力に囚われた男の右腕は、虚しく力むだけ。


「く…そっ。貴様、何をしたっ?」


焦りながらも毒づく男。
無理矢理見えない力に抗おうするが、腕はぴくりとも動かない。



「簡単な術をかけただけだ。

こんな場所でお前に騒がれたら都合が悪いからな。
それに……」


話を中断し、目配せするウルドの視線の先には、広場に入ってくる町の人の姿…。


「町の中では闘えない。お前だって騒ぎを起こしたくないだろ?」


ウルドに言われて、男は悔しそうに唇を噛み締める。

これ以上ここに居ても、埒があかないと考えたのか、男はふいとウルドに背を向けた。



「――貴様をここで取り逃がすなんて遺憾だ…。
だが、俺は絶対に諦めないからな。

貴様を地の果てまで追ってやる」


まだ術にかかった状態の動かない右腕をそのままに、男は広場の出口に向かい歩きだした。



遠ざかる銀髪の男…。


剣を抜くような形で固まった右腕が不憫に思えたので、ウルドは術を解いてあげた。




「―――化け物か…」


ベンチで一人、ウルドは男の言葉を思い出していた。

言われ慣れていたはずの言葉…。
なのに、こんなにも心が痛く、苦しくなるなんてどうしてだろう。


イオと旅を始めてから、自分はやけに“化け物”や“魔物”などいう言葉に敏感になったような気がする。



「俺は……」


(イオの前では、せめて人間でいたい)




ふと見上げた空。
広く澄み渡った碧空にあの男の面影が見えて、ひどく憂鬱だった。