「バンド結成を祝して、カンパーイ!」

ガラスとガラスのぶつかる音は狭いカラオケボックスの中でよく響いた。

今日は私たち4人にとって記念すべき日である。

『6月6日』

私たちのバンド結成日だ。

覚えやすい方がいいからとリーダーのミキが今日に決定したのだ。

そもそもバンドを組むきっかけとなったのは、このミキのたった一言から始まった。

それは今から一週間前。

ミキと二人、屋上でお弁当を食べていた時だ。

「ねぇ、モモ…」

余りにも真剣な顔をしたミキに、一瞬戸惑ってしまう。

しかし、私にはすぐわかった。

「ミキ、また何かおもしろいこと思いついたんでしょ?」

長年の付き合いで鋭くなった勘は見事的中したようで、ミキは嬉しそうにニタリと笑う。

「バンド組もうよ!」

私は苦虫をつぶしたように顔を歪めたものの、驚くことはなかった。

ミキの突発的な発言は今に始まったことではないからだ。

見た目の大人っぽさや知的美人な雰囲気とは裏腹に、彼女はとても無邪気で好奇心旺盛なのである。

「バンドって…ミキ楽器できるの?」

「ムリ!」

返答はいたって早かった。

ミキが楽器を弾けるわけがない。
小学校からバスケット一筋で体育の成績は常に5、というくらいの運動バカなのである。

そんな彼女が楽器を弾けるとしたら授業で習ったリコーダーくらいだろう。

「楽器弾けないならできないじゃん!」

もちろん、私だって弾けない。

超がつくほどの不器用であきっぽい。

体育どころか、どの教科でも5はおろか4すらとることができないのだ。

そんな私が楽器を弾けるなら、0歳の赤ちゃんはペラペラと日本語をしゃべれてもおかしくない、というくらいに。

「それはこれから練習すんのっ!」

この場はミキの強い言葉でとりあえずお開き。

なぜなら、昼休み終了の合図が私たちを急かしたからだ。

ミキと私はお弁当をおさめ、眠たい授業をうけるべく、駆け足で教室を目指した。