口での言い争いとは反して、2人ともフェアープレイに徹していた。

ミチルがすごい!と感心している間に、テニスコートのまわりに他のお妃候補たちやお世話係の使用人がたくさん集まってしまった。


「キョウさまぁ~!メガネなしのさわやかキョウ様のあのような速さは初めて見ますわぁ!!」


「クインとコーチもさすがに譲りませんね。」


口々にギャラリーが感想を言う中で、お妃候補の中で最高の頭脳を持っているといわれているメリッサが2人が打ち合うコートに入っていく。


「どけっ、死にたいのか?」


クインがそう叫んでラケットをふりあげた途端、


「あなたの負けよ。足を痛めているくせにこんな意味のない試合を受けてるんじゃないでしょ。バカ。」


「くっ・・・。きさま・・・。」


クインはボールを落としてしまい、ゲームセットになってしまった。


「怪盗も罠にかかって怪我をしてしまっては、カッコ悪いわ。
王子に情けをかけてもらって、ミチルに手当してもらって人情に浸っているのいるのね。」


メリッサに暴露された真実にクインは顔をしかめると、爆薬を使ってその場から姿を消したのだった。


「クイン!」


ミチルが叫んだが、クインの返答はなくなってしまった。

クインとは近いうちに別れが待っていると思っていたミチルだったが、こんな別れ方をするのは不本意だとミチルは涙があふれてきた。


「ミチル様。こんなことをした私を恨みますか?」


「いえ、柏木さんは当然のことをしただけなんでしょう。
メリッサさんだってすぐに足のことをに気付いて、コートに入ったのに・・・。私は・・・私が入らなきゃいけないのに。」


「余計な気遣いをしてはいけません。
彼だってそれは望まないはずです。

足のことは私も気づいていませんでした。
それほど彼は演技がうまい怪盗だったということでしょう。

すぐにもどりましょう。また王子から叱られるわけにはいきませんからね。」


「柏木さん?私の時間などのために、こんな大げさなことになっちゃって、もう・・・何をやってるんですか?」


「私は、あなたのお世話をする時間がほしかったのです。
優先順位1位なのだから、仕方がないじゃないですか。」


「私に近づいたらもうバカになってるしぃ。」


「はい。」


夕飯をすませて柏木といっしょにイディアムのところへ毎日の報告に来たミチルを見て、イディアムはクスクス笑って出迎えた。


「イディアム様?何が・・・そんなにおかしいのですか?」


「思ったより仲直りに時間がかかったなと思ってさ。
まさか、クインが君に惚れてしまうとは思わなかったけどね。」


「クインはイディアム様が紹介してくださったのに・・・。」


「まぁ、そうなんだけどね。
どっちかというと、彼の心を開くために君に期待していたんだ。僕はね。

でも有り余るほど十分だったというわけだったね。
君は優しい人だから。

で、明日はよろしく頼むよ。
キョウがもどってきたってことは、テニスはもう問題なさそうだよね。」


「はい。クインも大丈夫って言ってました。」


「そっか、それは楽しみだ。
でもさぁ・・・仕上がった状態でお妃候補とペアを組むのもいいんだけど、僕は君たちを見てると、自分でじっくり教えてあげたかったなぁ。なんて思うね。

すまない、そんな我がまま通用しない身なのはわかっているのに。
候補のお嬢さんたちそれぞれに、話をしながら育んでいけるといいんだけどそれも許されない。」


「イディアム様はもしかして、もうお気に入りの姫がおられるのでは?」


「いや・・・まだそこまではね・・・。
それに慎重に選ばないと。
その人の一生をまるまる変えてしまうことになるのだからね。

でも・・・ミチルを見てると僕がしばっていいものかと思ってしまうくらいに元気でいい意味で皆をふりまわして、皆がミチルを気にしている。

僕の憧れの存在だ。君はね・・・。」


ミチルは照れながら、王宮の外へ出てしまい、柏木はイディアムに近づきささやいた。

「何かあったんですね。」


「ああ・・・やはり君にはわかってしまったね、じつは弟のジュイムがお妃候補のマーガレットを妊娠させてしまった。

いずれ、このことは皆に知られてしまうだろうが、残りのお妃候補から早急に僕の相手を決めなければならなくなった。

もう、愛情よりも消去法でしかお妃を選べない状況になってしまった。」


「それでミチルは消去なわけですか・・・。」


「うん。ミチルはとてもいい娘だよ。
でも、まっすぐすぎてこの王家を押し付けるのが申し訳なさすぎるんだ。

かといって、真っ先にい落選押しするのは傷つけてしまうだろうし。
この先まだ、舞踏会もある。

きっとミチルは必死にまた練習するんだろうなって。」


「どうしてそういう娘を避けたがるんです?王子は・・・」

「自分が真面目に努力するようなタイプじゃないからかな。
自分に罪の意識が芽生えてしまうんだよ。

そこで頼みがある。彼女の望みを叶えて与えてやってくれ。
金銭的なこと、社会的なこと、できることを出来る限りだ。」


「しかし・・・私は。
私の携わった事業のせいで、ミチルの父の会社をつぶしてしまったのに。
それをどうやって説明すればいいのか。」