イディアムについて行くと、椅子が片づけられている会議室に着いた。


「さてと・・・はい、これで遊ぼうか。」


イディアムはミチルにバドミントンのラケットを手渡した。


「持ち方も打ち方も自由でいいよ。
単なる羽根つきだから・・・。

正式ルールとかどこへ打ち込むとか制限なし。
とにかく、なるべく羽を落とさないように打ち合う。

子どもの頃にこんな感じなのは遊ばなかった?」


「遊び用ので遊びました。」


「じゃ、いくよ。それっ!」


「えっ、・・・ああ・・・ヨッっと。」



「うんうん、いい感じじゃない。」


「ど、どうしてこんなこと?」



「そんなの決まってるじゃない。打ち合うと楽しいからだろ。」


「楽しい・・・?キャッ・・・落としちゃった。」


「ここで墨を塗ったりする?あはははは。」


「それは羽子板を使う羽根つきですよ。
お正月の遊びです。」


「そんな遊びでいいんだよ。

親睦をはかるのは、仲良くなっていっしょに楽しみたいからさ。」


「でも、あまりに実力に差がありすぎたら・・・イディアム様がバカにされてしまうじゃないですか。」


「僕は何と言われようがかまわないけど、君がショックなんじゃない?
僕の手前どうのこうの・・・っていう理由はいらないからね。

誰が何て言ってるのか知らないけれど、君が1球も返せなかったとしても、僕は君を責めたりしないし、お客でやってくる人たちもバカにはしないよ。

そういう人たちがやってくるんだからね。

だけど、それじゃ君は悲しいよね。
少しでも打ち合いたいだろ?
あたりまえだよ、こうやってさ・・・打ち合ったら楽しいんだもんな。

初めて会った人たちとわかりあえる手段。
打って返して打って返して・・・こんなふうに遊べると、もっと話がしたいなぁ~とか思うでしょ。」


「思うから・・・悲しいんです。
柏木さんの本気球を1度でいいから打ちたかった。」


「よし、僕の本気を打ち返して来い!」


「わぁっ!!!!」

ミチルはイディアムのスマッシュを受けきれずにすべって床に座り込んでしまった。


「打ち返せませんでした・・・。すみません。」


「そうだね。・・・よし、明日は僕のコーチを君に派遣することにしよう。
僕が3才のときから教えてくれた人の息子なんだけど、きっと今の君には力になれる人物だと思う。

ほんとは僕がコーチしてやりたいんだけどね、お妃候補のがんばり期間内は個人との接触は毎日の報告時間か、正妻に決めた候補のみ無制限と決まっているんだ。ごめんね。」


「いいえ、私の我がままをきいてくださって、ここまでのことをしていただいて本当にありがとうございます。」


「明日は、元気な顔を見せておくれよ。
キョウには僕からちゃんと言っておくから、心配しないで。」


「ありがとうございます。わ、私・・・元気になって来ますから。」


ミチルは王子直々の励ましに、とても気をよくしてギリアム邸の自分の部屋へともどっていった。


その後、キョウはイディアムへコーチの交代をしないようにと申し出た。

しかし、イディアムはキョウへしばらく仕事重視するように命令した。


「彼女にとって重要な踏ん張りどころですよ!
1球取り損なったからって・・・そんな。

私じゃないと残り期間でラリーができる程の実力をつけるのは難しいと思います。

しかも、練習後のお茶や食事の給仕も別人にとは・・・どうしてですか?」


「わからない?
べつに、イジワルをしてるんじゃないよ。

それに、朝と昼は君も彼女に普通に世話できるじゃないか。」


「しかし・・・。」



「まぁ、ちょっと僕のお手並み拝見していてくれ。なっ・・・。」