卓球部室は、ワークルームという狭い体育館のような所だった。
晴香は、早口で
「体育館シューズ持ってきたっっ!?」
とききながらラケットをカバンから取り出した。
ボーッとつっ立っている香澄に晴香は
「あ、カバン?そこの階段においていいよ。」
といい、少しジャージのズボンを下げた。
腰パンしていいんだ、と香澄は思った。
「おい。」
香澄がワークルームへ入ろうとすると
後ろから低い声が聞こえた。
「部員以外は入るな。」
そこに立っていたのは、
去年席が隣だった、真志(シンジ)だった。
「いいじゃん、見学くらい・・」
晴香は香澄と話しているときよりひとつ高いトーンで言った。
香澄は、去年から真志のことが気になっていた。
普段はほとんどしゃべらない。
授業中は挙手はせず、成績もよく分からない。
運動は苦手ではないと思うけど、卓球というイメージはわかない。
常に移動は一人でする。
顔は悪くはない。でも、
独りを好む性格は嫌われていた。
それでも、香澄との日直のとき、
先生の花瓶を割ってしまったときに、
真志は無言でこぼれた水を
雑巾でさっとふいてくれた。
そんな真志のいいところを
知っているのが自分だけだと知ると、
なんだか香澄はうれしくなった。
「で、どうすんだよソイツ」
真志は吐き捨てるように言った。
それが去年隣だった奴に対しての態度か、と香澄は思った。
晴香に連れられ、
香澄はワークルームの中へ入った。
(部員じゃないのに・・)
香澄はそう思ったが、中が気になっていたので入った。