岡崎は多少見られる感じにはなったけど、相手は狸ジジイだ。


 「うん」

 「よく塗っとけよ?」


 メイクに何の技術もない、多分トークもダメで視線のテクニックとかもない。

 だったら、普通にしてるとき魅力を感じさせる必要がある。




 手っ取り早いのが唇だ。

 喋るとき、絶対に動くから。




 …………適当だな、マジで。


 「塗ったくったって、意味ねぇよ?」


 岡崎の唇はリップラインがあやふやで、水飴でも食ったあとみてぇに、べたべたしてるだけ。

 ガキじゃねぇんだから。


 「そんなこと言われても……」


 何一つ自分じゃできねぇのかよ。

 あれでもジジイは化粧品メーカーの総帥だ。

 メイク一つできねぇような女を俺の彼女だっつったら、あの手この手で邪魔される。

 こりゃあジジイの巣窟に着いてから、どうにかするしかねぇな。

 家っつうか、城じゃん、と言いたくなるようなジジイの住み家に着くと、どうしても気が萎える。


 「お待ちしておりました」


 着物姿の女従業員に迎えられると、まるで何かの撮影に

 参加してるみてぇな気分になるのはいつものこと。


 「悪いんですが、この子にメイクしてやってくれませんか?」

 「えぇっ!」


 俺の隣りで大げさに驚いたのは岡崎美希。

 テメェそんななりでジジイの前に出られると思ってんのか!

 仮にも縁談止めにきたんだぞ!

 って、これは俺しか知らないけど。

 戸惑うばかりの岡崎を従業員に連行させて、俺は座敷でくつろいで待っていた。


 「寿様、お茶が入りましたが、いかがでしょうか?」


 お茶? まだジジイにも会ってねぇのに。


 「お願いします」


 だけど喉乾いてたからそう答えた。

 すると、障子がスッと開く。