「美~希ぃ」


 放課後になるとすぐ、寿が私のところまで歩いてきた。

 その顔には悪魔的な妖しい微笑み。

 焦燥感が一気に胸の中を満たしたけど、行かないなんて選択肢はとっくに捨てちゃった。

 私は寿に言葉をかけることもなく席を立って、歩き出す。

 後ろで、がやがや聞こえるのは寿と女の子の会話。






 今日、私は寿と別れることになると思う。

 そしたら、どうなるんだろう。





 寿をアイドル扱いしてる女の子たちから、私は冷たい目で見られると思う。

 何か、されたりするのかなぁ。

 もしされたとしても、寿は今日の朝みたいに、女の子たちから私を守ってくれないと思う。




 まぁ、考えてても、仕方ないね。




 相変わらずの高級車に乗り込んで、寿の家に行く間、当然気持ちが晴れない私は無口だった。


 「静かじゃん?」

 「疲れてるの」

 「これからスポーツするのに。マッサージでもしてやろうか?」


 しない。

 絶対、しない。

 そう硬く誓ってるけど、私は何も答えなかった。

 そしたら寿も何も言わなくて、嫌な沈黙が流れ始め、車を降りるまで終わらなかった。




 こっこが……寿の家?




 大きなホテルに連れて来られてビックリした。

 私がいるのは最上階の、いわゆるペントハウスっていうやつで、中には誰もいない。

 開放的なリビングから見える、バーカウンター。

 ホテルの中にあるはずなのに、私ん家より広そう……


 「入れ」


 だけど、通された部屋はそんなに広くもなかった。

 机とセミダブルのベッド以外には何もないシンプルなつくりで、

 まるでビジネスホテルの一室だ。