マサカ叩く気!?


 「やめてっ!! 違うってば」


 私が叫んだ瞬間、左手がしゅっと私の方に伸びてきた。

 左手の人差し指が立っている。

 黙れってこと?

 寿は左手を下げたけど、私はまだドキドキしてる。

 ゴクッとツバを飲み込んで、寿の顔を見ると、彼は笑っていた。

 目を細め、唇を横に引き伸ばすようにして妖艶に。


 「ごめんな? 俺コイツのことになると見境なくなっちゃうからさ」


 笑顔をそのまま残し、寿は視線を移動させる。


 「お前とか言ってマジ悪かったな、夢花ちゃん。お詫びはあとでするから、許して?」


 今度、寿は顔一杯で微笑んだ。

 向けられてない私がドキッとするくらい、無邪気で可愛い笑顔。

 ずるいよそんなの。

 私だったら絶対……


 「はっはい」

 「ありがとな。夢花ちゃんが優しい人でマジラッキーだ」


 そこでちょうど良くチャイムが鳴った。

 この時間、何の授業だったっけ?

 みんなの机の上には制服がたたまれてたり、山積みだったり。




 ヤバ~ッ! 体育じゃんよっ!!




 まだ着替えてないのにぃっ。

 私は、慌ててロッカーから着替えを出す。

 その頃、教室には誰も……


 「ちょっと! 何で座ってるの?」

 「体育なんか、めんどくせぇんだよ」

 「怒られるよ」

 「心配してくれてんの?」

 「もっ、もちろん」


 ウソ。

 こんな奴、怖~い体育の先生に、こっぴどく怒られればいい。