「気持ち……悪い……」


 トイレに駆け込んで吐いた。

 ぴしゃぴしゃ音を立てて、茶色のドロドロした液体が水の中に沈んでいく。

 口の中がマズイ。

 う~もうイヤだ……

 でも、ケーキつくれないと、バレンタインでわたせない。

 頑張らなきゃ。

 明日もつくれるように、ケーキ食べきらなきゃ。

 胃の中が空っぽになってくれたんだから、ラッキーって思おう。


 「美希ぃ……あんた大丈夫?」


 お母さんが背中をさすってくれた。


 「平気だよ……」


 バレンタインのためだもん。

 頑張れる。

 洗面所で口をゆすいでリビングに戻ったら、テーブルの上の

 チョコレートケーキを見て、また吐き気が襲ってきた。

 でも、食べなきゃ。

 本番まで三日だよ。


 「もういいわ」


 私がケーキに手を伸ばそうとしたら、お母さんに止められた。


 「どうしてケーキなの?」

 「チョコ溶かしてかためただけじゃ、気持ちが伝わんないよ」

 「食べなくていいから、焼くのは一日一度にしなさい」


 お母さんは優しい笑顔で笑って、私の頭を撫でてくれた。




 そうして迎えた本番。




 焼き加減がどうしても分からなくて、ちょっとかためだけど、

お母さんがコツを教えてくれたおかげで、しぼまずにつくることができた。

 あとは、わたすだけ。




 リュースケくん人気あるからなぁ……




 大事に手提げに入れて、ドキドキしながら登校したら、

 リュースケくんの周りには女の子がいっぱいいた。


 「ありがと」


 いつも明るくて面白いリュースケくんなのに、

 照れくさそうに貰った物をカバンにしまう。

 だけど入りきらなくて……


 「リュースケすげ~な~」


 クラスの男の子が、羨ましそうな顔でリュースケくんを見つめてる。