「ね? 面白いでしょ?」

 「そうだな」


 何だかテンションが低い。

 乗り気じゃないの?


 「部活、そんなに大変?」


 星哉は五月に引退かどうかを決める大事な大会がある。

 俗に総体っていうやつだ。

 そろそろ練習も厳しくなってくる頃だと思う。


 「いや?」


 じゃあ、やっぱり乗り気じゃないんだ。


 「星哉覚えてるかなぁ……私たちが小学校三年生のときのことなんだけど」

 「何かあったか?」


 そうだよね。

 こんな風に言われただけで当事者じゃない人がスッと思い出すわけない。

 星哉にとっては、ほんの些細なことなんだ。



 小学校三年生の二月十四日。



 あの日のことは、どうしても忘れられない。

 お年玉をとっておいて、いっぱいチョコレートやバターを

 買った日のことまで、私は鮮明に覚えてる。


 ドキドキわくわくしてて、買い物に行く日は家まで走って帰ってたっけ。

 「美希、いい加減にしなさい」


 お母さんが怒るのも無理ない。

 チョコレートケーキが膨らまなくて、ダイニングテーブルには残骸が二つも並んでいる。


 「焼き加減とか分からないんだもん」

 「今日は全部食べなさい」

 「えーっ!!」

 「自分のお金だからって、食べ物を粗末にしすぎよ」


 膨らんでないチョコレート味のスポンジケーキを二つ。

 焼きすぎて表面がかたく、真ん中はくぼんでる。

 昨日だってちょっと食べたよ。

 チョコ味だもん、しつこくて、そんなに食べられない。


 「食べるの手伝って」

 「ダメ」

 「夕ご飯入らなくなっちゃう」

 「いいじゃない」

 「え―――っ」


 私は泣きながら食べた。