掃除が終わるのを待っててやったのに、ロッカーの前に立っていた俺を

 一瞥しただけであの女は前をスルーした。

 声かけても嫌味言われるのがオチだと思ったから、
 
 俺は他の奴らと会話しながらついていく。

 俺を取り囲む数名の女は、新山の友だちを意識してる感じで

 空気がピリピリしてて歩きにくかった。


 「ね~え~ぇ、今日はみんなで遊びに行きたいぃ。ダメ?」


 うん、ダメ、と即答したいのを堪えて、


 「明日ならいいよ」

 「梨乃は今日がいい」

 「ごめんな? 今日だけは勘弁」

 「え~。岡崎さんばっかりずるいよぉ」


 あの女、岡崎って言うのか。


 「今日の約束守らなかったら、大事なとき、
 梨乃が俺の言葉を信じてくんなくなるだろ?」

 「私は信じるよ」

 「マジで? 俺が毎日浮気してても、してないって言えば
 信じてくれんの? いい女だな~お前。彼女にしてぇ」


 凄く嬉しそうにそう言ったら、信じると言い切った梨乃は複雑そうな顔をして、うつむいてしまった。


 「な? 約束は守るもんだよ」


 軽めに言って俺は立ち止まる。

 白いリムジンのドアが開けられて、俺は冷めた顔で立っていた岡崎に

 五本の指を揃えた手で合図した。

 近くから悔しそうな視線をいくつも感じる。


 「お前らフランスとイギリス、どっちが好み?」

 「私イギリス~」

 「ウチはフランスだよ?」


 ボンボン意見が出て、そのうちに岡崎は車の中に消えた。


 「分かった。パティシエに頼んどくな」

 「パティシエ~ェッ!? 何つくってくれるのぉっ!!」

 「さぁ? 気をつけて帰れよ」


 さっさと車に乗り込んでリムジンが走り出すと、深いため息が漏れた。

 今日はいつも以上に酷かったなぁ。

 俺がバックレてたせいで会話があんまりできなかったからか?







 「お疲れサマ」


 もの凄く嫌味な口調で労われた。




 「あぁ。で? 言い分は?」


 ここからが本番だ。