「来たければな?」

 「是非招待してよ」


 新山の話し聞いてるはずなのに、こいつ尻ガルなのか?

 昨日の今日でお前が俺ん家来たら、新山傷つくんじゃねぇ?

 余裕の顔で笑ってるけど、そこんとこ、ちゃんと分かってんだろうな。





 俺、知らねぇよ?





 チャイムが鳴って、急に俺は現実に引き戻される。

 次の授業は古典だ。

 いくら大学卒業してるからって、俺は日本の古典文学は知らない。

 何だか言葉が古すぎて、意味が全然分かんねぇ。

 唯一しっかり受けてる授業だった。


 「十二支って皆さん知ってますよね? 子、丑、寅ってやつです。
 昔は時間もそれで表していたんですよ。例えば十二時のこと、
 正午って言いますが、これは午の刻という意味でぇ……」


 へ~ぇ。

 なるほどねぇ。

 先生が黒板に書いてくれた昔の時計の文字版を見て、一人で納得していた。


 「草木も眠る丑三つ時という言葉がありますがぁ、ネズミ、
 つまり子の刻がここからここまでなので……」


 知らないことを知るのは結構面白い。

 もう卒業しちゃってるし、テストなんか受けなくても問題ないから

 勉強する必要もないのに、授業に出ると結構真面目に聞いてる。

 俺はあんまり勉強が嫌いじゃないのかもしれない。


 「新山さん、丑三つ時って何時頃ですか?」


 新山は何も反応せず、じっとしていた。


 「新山さん?」

 「はいっ、はい。えーっと……先生質問は……?」

 「ちゃんと聞いててくださいね」





 保健室から戻って来てから、ずっとあの調子なのか?

 それとも、俺がいるからか?

 しばらく俺は学校来ない方がいいかもしれないよな。




 授業が終わって放課後になると、俺は女に取り囲まれ、アピられた。

 毎日一人ずつ連れて帰ってるからな。

 今日はもう決まってるんだけど……






 つれねぇ女だ、まったく。