「朝、寿の車に乗らなかったのは何で?」

 「戸惑ってたからじゃないか?」


 そんなんで説明つくの?


 「俺もよく分からないけど、とりあえず、様子見た方がいいんじゃないのか?」

 「う~ん」

 「新山保健室にいるからさ、少し話きいてやってよ。
 岡崎にならもっと違うこと言うかもしれないし……
 彩並が迎えに来てくれたことで、少し考え代わったかもしれないしさ」

 「うん、分かった」

 「何かあったら、すぐ報告してな?」

 「ありがと」


 HRのあるフロアで星哉と別れて、私は保健室に向かう。

 保健の先生は、奈々が隣りの談話室にいると教えてくれた。

 保健室にはいろんな人が来る。

 不登校だった子、心に傷を負った子、勿論、怪我した人も。

 声が漏れにくいつくりになっているこの談話室は、主に心に傷を負った人のためにある。

 担任の先生や友だちと話しをしたりするための部屋だ。

 悪いことして怒られるのも、この部屋だったりする。

 何もないときはカギがかかっていて入れない。


 「ミッキー、なんかごめんね」


 談話室に入ると、奈々には私を気遣う余裕まで生まれていた。


 「いいよ~」


 ちょっと安心だ。


 「あのね、奈々。さっき、彩並くんに会って来たんだ」

 「そう……」


 視線が落ちて、一瞬にして何倍も暗い雰囲気をまとう奈々。


 「奈々のこと、特別な存在だって言ってたよ」

 「そうなんだ」

 「嬉しくない?」

 「彩並クン優しいから、誰にでもそういうこと言うよ」


 半端な嘘は奈々をもっと傷つける。

 否定できるほど寿を知らないのが辛い。


 「もう奈々の前に現れないで欲しいとか思ってたけど、
 さっき会って話ししてみたらさ、二人でもう一度話すべきだって思ったよ」

 「もういいよ」

 「だって」

 「美希には分からないよっ!! 星哉クンとラブラブだもんね」

 「奈々……」


 それを言われたら、何も言えないよ。

 叫ぶように言った奈々の横顔が悲愴だった。