私は目を逸らし、下唇を噛む。

 どうしたらいいのか、分からなかった。





 彩並寿が、歩いていく。

 薄青の空の下、鉄製の扉を開けて、校舎内へ消えた。





 奈々に、何て伝えればいい?

 寿にとって、奈々は特別な存在だと伝えればいい?

 それは好きとか嫌いとかいう感情じゃなく、ただ特別―――――





 唯一使いこなせる言語でできた言葉なのに、全然意味が分からない。

 星哉は何て言うかな。

 まず、星哉に相談しよう。

 私は携帯で星哉にかけた。

 しばらくコールしたら、星哉は出て、屋上まで来てくれた。


 「奈々から話し、聞けた?」

 「うん」

 「どうだった?」

 「キスされただけって……言ってたよ」


 星哉は言うのを躊躇っているような口調だった。


 「そう、なんだ」

 「大分……話しが変わってくるよな」

 「そうだね」

 「そっちは?」

 「最後まではしてないって。奈々のこと特別だって言ってたよ。
 だけど、それは恋愛感情じゃないみたい。どういうことだと思う?」

 「分からない」

 「だよねぇ」


 全ッ然、ちんぷんかんぷんだよ。

 寿にとって奈々がどうでもいい、なら話は早いけど“特別”って、ナニ?

 “特別”だったくせに、捨てたわけ?

 捨てた?

 朝、迎えに来たよね?


 「あのなぁ岡崎」


 星哉が、何か決意したような表情で私を見た。


 「新山は、戸惑ってるんだと思う」

 「戸惑ってる?」

 「そのときのこと、詳しく聞いたんだ。途中までいったけど、
 新山が嫌がったらしい。そして、終わった」

 「え? じゃあ奈々が泣いてたのは……キスのせい?」

 「違う。嫌がったこと、後悔してた」

 「えぇっ!!」


 何それ……

 ちょ、え?

 一晩中、目を真っ赤にしてたのは、後悔のせい?

 あんなに泣きじゃくって、あんなに傷―――――

 いいよ、泣いたのは。

 傷ついたような顔してたのは、どうして?