「明日になれば分かるはずだ」


 不安の中に絶望を溶かした、あどけない少女の顔にした口づけの余韻が



 舌に残っている。





 だがそれには続きを切望させるような甘美さはない。







 多分、新山は特別な女だ。







 他の女を見るのとは違う場所からそそぐ、俺の視線がそうさせる。


 「でも俺の中で奈々ちゃんは恋人にはならないと思う」


 うつむいてじっとしている少女の、力なく落ちた肩。

 そっと手を差圧し伸べて、細い頤に指を乗せた。




 いちいち全身で反応する小動物みたいな少女の顔を俺の方に向けさせる。






 こんなことしながら、らしくもねぇ言葉を紡ぐのは罪か?





 自分でも不思議になるほど心の中は静かで冷静だ。


 なのに微笑みさえ浮かべて、俺は咎を背負う。


 「だけど最後に笑うって誓えば、涙はいくらでも拭いてやるよ?」






 新山の顔が歪む。





 悲しみが一滴でもこぼれたら抱きしめてやろうと思ったが、

 少女の顎は指から降りて静かに下に向く。




 頼りなく見える小さな頭、僅かに乱れた柔らかな髪。



 軽く叩くように撫でてやりたい心境に駆られたが、少女は

 涙を俺に拭われることを望んでない。





 やがて新山は、ゆっくりと顔を上げる。


 「これじゃ……ダメかな……」


 無邪気すぎる笑顔の中で、俺を見つめる瞳だけがキラキラと輝いていた。