「飲めよ」


 紅茶を差し出すと新山の震える両手が伸びてくる。

 それは手がソーサーに触れた瞬間だった。



 「奈々、手じゃない。口だ」



 俺の声に反応して止まる新山の手。

 無視してカップを口に近づける。


 湯気の立つ熱い液体が紅の唇に触れた。

 ゆっくりとカップを傾けていく。

 鼻の辺りまでがカップに隠れて見えなくなった。





 長すぎることは分かってる。





 新山がカップを持った俺の左手に触れ、引き下げた。

 左手はおとなしくソーサーの上にカップを置く。





 だが、右手は



 顔を歪ませて口元を押さえる新山の肩にしなだれかかった髪を

 静かに払いのけた。




 そのまま指だけで耳の裏を撫で、手のひらで頬に触れ

 顎のラインをなぞって口に当てた新山の手に重ねる。


 「うまかった?」


 カチンコチンにかたまった新山の緊張が空気を通して伝わってきた。

 だけど手を離し、背を向けながら俺は口を開く。


 「マズくて吐きそう?」


 何の感情も込めずに言ったら新山は夢中で首を振るのが見えた。


 「聞こえねぇよ」