「岡崎?」

 「えっ」


 一瞬にして街の雑踏が戻ってくる。

 そうだ、私は星哉と放課後デートに来てて……


 「ごめんね。何?」 

 「そこ、並ぶ?」  


 星哉の視線の先には、古ぼけた看板のクレープ屋。

 この辺りでは一軒しかなくて、今日もほら、列ができてる。

 中学生のとき、ハンバーガー食べた日もこんな列ができてたから、

 クレープは次にしようってことになったんだ。






 あんなことがあったから、結局、次なんかなかった。

 もしもハンバーガーじゃなくて、クレープにしてたら、

 私たちは怒られたりしなかったのかなぁって、

 どうしようもないことを考えてみる。






 学校から数駅離れてるのに、どうしてハンバーガー食べてたことが

 バレたのか、今でさえ分からないんだ。


 「うん。並ぼう」


 星哉は口の両端を引き上げて、あのときみたいに、笑った。






 刹那、私の意識はあの日の舞台の上に遡ったけど、

 胸がキュンとしただけで、涙は出ない。