奈々がいない。

 同じ中学校からココに進学した私たちは星哉の部活がないとき、いつも三人で帰るのに。

 下校ラッシュの電車の中、朝の満員ぶりには追いつかないのに、

 それでも座席は空いてない。




 何を話したらいいのか分からなくて、私はドアのすぐ左横に寄りかかって

 外を眺める星哉の横顔を気にしながら立っていた。




 電車が止まり、目の前のドアがスッと開いて、

 私は右端に避けようとする。

 だけど二の腕に強めの力がかかって左側に引き寄せられた。




 私の肘がトンッと星哉の胸に当たる。




 二の腕を圧迫していた感覚がパッと消えて私の肘も真っ直ぐ伸びて、

 体温と息遣いだけを感じる微妙な間隔が私たちの間に入り込む。

 今朝のことを私の手の感覚が思い出した。








 何かないとダメなんだ。

 太ももの横で、ただ下ろしていた左の中指をノックするときみたいな角度をつけて、

 ちょっとだけ持ち上げてみる。



 コツッ



 第二間接の硬い骨が何かを叩いたけど、それが何なのかは分からなかった。

 折角二人なのになぁ。

 一応、プチすぎるけど、初デート。

 でもこれ以上何かする勇気ない。


 「時間ある?」


 ドキンと心臓にナイフが刺さったような痛み。


 「じか、時間!?」


 一瞬自分がドコで何してるのか、忘れた。





 きたー!!

 デートだよねぇ絶対!!




 激しくドキドキしてるのを気づかれたくなくて、

 ゴクッとツバを飲み込んで一呼吸おく。


 「ある、けど」

 「ここで降りよう」