部屋を出て行こうとしたら、美希が呼び止める。


 「一生無理だな」


 振り向きもせずに言い置くと、今度言葉は返ってこなかった。

 友だちの定義なんか設けたことはないけど、美希は俺のことを知りすぎた。

 見られたくない部分も、知られたくないことも、ほとんど暴かれたら、

 俺が多分平常じゃいられない。

 距離を取るのが一番いいと思う。

 俺は、美希が怖いのかもしれない。

 あいつはこっちの状態なんかおかまいなしに、ドスドス入ってくるような奴だ。

 全てを偽って隠してるとは言わないけど、踏み込んで欲しくない部分は

 誰でもあるだろう?

 攻め込まれた俺はそろそろリミットが近い。

 だから俺の負けなんだ。


 「寿」


 会話は終了したはずなのに、美希は主寝室から出てきて内線を取る俺の手を止めた。


 「まだ何か用?」

 「ここで寝ちゃダメ?」

 「残り、狭いのが一部屋しかねぇよ」


 あとの部屋は昨日の今日でハウス・キーパーを入れる暇もなく、

 琴音と鷹槻が使った形跡が残ったままだ。


 「さっきの部屋でいいよ」

 「あれは俺の部屋だっつっただろ?」


 美希の言おうとすることが全く理解できなくて、イライラが募っていく。


 「ベッドもう一つあったじゃん」

 「お前とはあんまり関わりたくねぇんだよ」

 「気ぃ遣ってるの?」


 こんなときばっか、何でそんなカワイコぶってんだ?

 気が強くて可愛くないのがお前だろ?


 「本心だ」

 「……じゃあ、私帰るよ」

 「そうしろ」

 さっき説明したんだから、美希はリスクも分かってるし、泊める義理はない。

 車を手配して、一応家まで送ってやったけど話題もなくて、

 二人とも黙ったままだった。


 「ありがとう」

 「じゃあな」


 ドライな挨拶で別れたけどマジなんか、スッキリしない。

 っつうか、スゲェ気分わりぃんだけど。