感覚って、心のことですよね?

 鷹槻さんに言われた通り、私は感覚を信じます。

 静かに歩いて寿の近くに行くと、肩を叩いてみた。

 目は開かない。

 代わりに規則正しい呼吸が聞こえて。


 「寝ちゃったの?」


 返事は返ってこなかった。

 寝たふりしてるのかもしれないけど、そんな憶測はおいておく。

 壁に寄りかかって座る寿の前にしゃがんで、寿の身体を背中に乗せる。

 寿、こんな状態だから見えないところにおいておくのが心配で、

 だからちょっとの間、一緒にいてあげようかなって思いました。


 「うっ!」


 立とうとしたら、前に倒れこみそうになった。

 ヒョロヒョロしてるくせに、想像以上に重い。

 もっと寿の身体を私の背中にくっつけな―――――


 「あッ!!」


 今度は後ろにひっくり返りそうになった。

 だって寿が急にしがみついてきたから。


 「おっ起きてるのっ!? だったら立ってよ!」


 反応がない。

 寝て…… 

 吐息が耳にかかってくすぐったくて、私は首をすくめた。 

 ウイスキーの匂いがまとわりついてきた。

 さっきまで何とも思わなかったけど、何だかもの凄く悲しい感じがする香りだね……

 寿、何の夢見てるのかなぁ。

 鎖骨の下辺りに寿の両腕が、がっしり巻きついてて、

 私はぬいぐるみにでもなった気分だよ。

 寿が抱きついていてくれたおかげで腰を膝を伸ばすことはできた。

 でも長身の寿を私はしっかり背負ってあげることができなくて、

 腰の曲がった老人みたいな格好で私は歩く。

 開け放たれた寿の部屋に入っていくと、イスは転び、筆記用具は散乱し、

 本は床に落ちて広がってるし、台風でも来たあとみたいだった。

 寿をベッドに降ろしてホッと一息吐くと、違った意味のため息が出そうになった。

 この部屋もリビングも、片づけるの大変だなぁ……

 今は静かに寝てるけど、やっぱり一人にしておけないし、

 だとしたら私カナリ暇だしっていうことで、掃除をしてあげることにした。