私の声は、届いてるでしょう?

 私を責めるんだったら、私の顔を見ればいいじゃん。

 そしたらちゃんと、あんたの目を見て言い返してあげるよ。


 「帰れ……帰れよ………」


 ついに笑いを孕むかと思ったのに、寿の声は変に揺れて、でも顔は笑ってる。
 
 ひたすら何もないところを見つめてるのは、

 見ることにさえ意味を感じていないから?

 白い歯が見えて、口の端はしっかり上がってて。

 泣くか笑うか、せめて……

 せめて、どっちかにしてよ。

 じゃなきゃ私、何をすればいいのか分からない―――――


 「美希」


 弱々しくて力のない声が、儚く私の名前を奏でた。

 そんな声で呼ばないでよ、悲しくなってくるから…………


 「ウザイ………失せろ」


 かすれ、枯れたような音。



 寿、心臓がね……ちょっとおかしいみたい。

 キューッと、何かに締めつけられてるみたいに、苦しい。

 もう寿の顔がよく見えなくなってて。

 どうしよう……




 「イヤだ」


 声が揺れそうになって、それを阻止しようとしたら変な声になった。

 置いて行けるわけないじゃんか。

 こんなボロボロで、しっかり歩けもしないで。


 「頼むから……独りにしてくれ…………」


 今までずっと、言葉だけは強気だったのに。

 それだけが私の中の寿のイメージを支えてたのに。

 グッと、喉の奥から何かが噴き出そうとしてきて、

 それを堪えるために口の周りに力を入れた。

 そしたら……そしたらほっぺが持ち上がって、頬が濡れちゃった……

 もう、いいや……

 やっと晴れた視界の中に寿を見つけると、あいつは両目を閉じて、

 人形みたいに座ってた。



 ねぇ、鷹槻さん。

 寿は私のこと、必要じゃないみたいです。

 だけど独りぼっちにしちゃダメだって、私の心が騒いでる。

 きっとね、目に涙が湧いたのも、寿のがうつったんだと思うんです。

 だって私が悲しいなんて、おかしいですよね?