一人でも立てそうだったけど、私さっき、寿に邪険にされて、

 ちょっと悲しかったから。

 打たなかった左の方の腕を寿は自分の首に回して、私を立たせてくれた。

 すぐ近くから漂ってくる蒸留酒の芳香が私の鼻をつく。

 私を気づかって、寿がゆっくり歩いてくれようとしてるのが分かる。

 全然、平気なんだけど……


 「あ、ヤベッ!」

 「わっ!!」


 寿がふらついたせいで左に傾く身体。

 ダメ! 私じゃ寿を引っ張りきれない!!

 私の肩を支える寿の右腕が身体をグングン左に引き寄せる。

 ドンッ!!

 寿の身体がどこかにぶつかって、引き寄せる力が消失した。

 良かった。

 私が自分の腕を寿の首からそっとどけると、寿は身体の向きをかえる。

 壁に背中をくっつけてよりかかると、二つの目で私を見た。


 「出てけ」


 酔っぱらったトロンとした目だけど、しっかりと私をとらえてる。

 私が一人でちゃんと歩けるってこと、寿は気づいたんだと思う。


 「そしたらまた飲むんでしょ?」

 「俺の勝手だろ?」


 言い返すのもだるそうな表情が寿の顔に浮かぶ。


 「飲み方も分からない人にもう飲ませたくない」

 「はぁ? お前、俺が会った女ん中で一番ウゼェよ」



 酔って座った目が鋭くなる。


 「アンタも最悪だよ」

 「だよな。腹ん中で嘲笑ってんだろ?」

 「そんなこと言われるなんて心外。誰のためにここに来たと思」

 「同情なんかすんじゃねぇ!!」


 寿が一喝する。

 ビクッとして身体を縮こまらせたけど、ここでひくわけにはいかない。


 「だっ、だったらされないようにしてよ! 私にアンタのこと恨ませて!!」

 「とっとと出てけ!! クソ女」

 「あっ!」


 突き飛ばされて私は後ろによろけた。

 転ばないですんだのは、テーブルにぶつかったから。

 テーブルに手を着きながらキッと寿を睨んだら、寿は―――――


 「もう………俺にかまうな……」


 さっき背を預けた壁によりかかり、そのまま、するすると下に落ちた。