ゆっくりと立ち上がって歩き出した寿は、たまにフラついて危なっかしい。

 洗面台のところまで行って、また吐いて、

 今度さすってあげようとしたら手を邪険に払われた。

 口をゆすいで、顔を洗って、タオルがないのに気づいて、

 寿はTシャツをめくり上げて顔を拭く。

 ハンカチ持ってるけど、わたすことができなかった。

 そしてまた、歩きだす。

 支えてあげたいのにそれは拒絶されて、私は何のためにここに来たんだろう。

 鷹槻さんが言うように、本当に私は必要なのかな?

 リビングのソファのところまでくると寿は腰を下ろし、透明の瓶に手を伸ばした。


 「もうやめなよ!」


 寿の手が瓶をつかむ前に取っちゃったら、もの凄い目で睨まれた。


 「うるせぇんだよ。勝手に入って来て、何なんだ? 帰れ」


 血走った目に背を向けて、私はキッチンに行って流しに瓶の中身を捨てる。


 「テェメェ何すんだ!!」


 左後ろから来てた寿は瓶目がけて手を伸ばす。

 取られないように動かしたけど捕まって。

 右へ右へと瓶を移動させようとするけど、強い力には叶わない。

 寿の身体が、私をどんどん押す。

 押す、押す―――


 「ちょ! あっ!!」


 私はバランスを崩して、右の方によろけた。

 マズイ!!

 と思った次の瞬間、右肩に衝撃が走る。


 「っ……」

 「美希っ!!」


 そのあと、重い感じの痛みが訪れた。


 「美希大丈夫か?」


 今はちょっと息が苦しいけど、ただぶつけただけ。


 「しば………らく……そっと……しといて?」


 私が苦しんでる間、寿は何してたんだろう?

 痛いのより、最初は呼吸が辛くて、周りのことなんか気にしてる余裕、なかったよ。

 身体を動かせるようになって、起き上がろうとしたら、寿は背中を支えてくれた。


 「ありがとう」

 「立てるか?」


 怒り狂ってたさっきのとは全然違う、心配そうな声。


 「肩貸してくれると嬉しい」