「すみません。自分からお願いしておいて……あのときは、わたくしも少し……
 何と言いますか、周りのことがよく見えておりませんでした」


 惑う私の心を読んじゃったのか、少し照れたように付け足して

 私が罪悪感とか持たないようにしてくれてるみたいだった。


 「頑張りますっていう答えじゃダメですか……?」


 鷹槻さんは全てを計算して、確実に寿を正しい方向へ導いてきたんじゃないかなって思う。

 だから今、鷹槻さんが欲しいのは私の明確な宣言と、

 この時点で私がやれるって思う自信に満ちた態度。

 だけど……………

 そんな自信、すぐつかないよ。

 鷹槻さんの凄さ、私は知ってる。

 私が知ってることだけが全てじゃないってことも分かってる。

 できるわけないじゃん、同じになんて。


 「他でもない、あなたが傷つきますよ?」

 「え……?」


 思いがけない言葉を貰って反射的に見た横顔は、正面ていうか、

 もっとずっと遠くを見てるようで―――

 それはそう、タバコの煙をゆっくり深く吐きだすときの表情に似てた。

 何を、考えてるんだろう。

 過去を振り返っているような感じもするし、

 見えない未来のことを予想しようとしてるようにも見える。


 「ただ一つ、確実に言えるのは、寿が岡崎様を必要としているということです」


 淀みなく連なる音が、不協和音に聞こえたのは私の耳が変だから?


 「どうしてそう思うんですか?」

 「気丈で逞くいらっしゃるようで、その実、繊細。
 現実に対する僅かな恐れが強さと優しさの裏に見え隠れして、
 おそらくそれは、寿の闇を呼ぶでしょう」

 「あの……何だか言ってる意味が……」

 「少し失礼なことを申し上げてしまいましたが、これがわたくしの中での、岡崎様のイメージです」


 せっ繊細?

 私、優しいのかなぁ……

 強くもないよ?

 確かに、中学校のときいろいろあったし、人の目を気にしちゃうところはあるけど……


 「寿は不用意に人を傷つけます。意識が自分にしか向いていない今では、尚更」