フロントガラスの上を光が頬ずりするように流れ去り、

 車はアスファルトの上に滑り出した。

 早く言わなくちゃ。

 時間が経つにつれて言いにくくなる。


 「鷹槻さん」

 「はい」


 普段と変わらない音が心臓に刺さった。

 隠してるんだ、私に見せた後悔とか愁いとか、その他のいろんなものを。


 「家に着くのは、何時頃になりますか?」

 「九時を少し過ぎるかと思います。こんな時間までおつき合いいただくことになり、申し訳ありません」


 運転に対しても真摯な鷹槻さんは進行方向から一切目をそらさないけど、その横顔には謝罪の色が混じってる。

 それがちょっと悲しそうに見えて、だから早く言わなくちゃって思った。


 「今から寿のところに行ったら、迷惑ですか? 私、力になりたいです……
 何もできないかもしれないけど……」

 「それは……とても有り難いお言葉ですが岡崎様…………
 自分から申し上げておいて、今更…………」


 難しい顔をして喋る鷹槻さんの台詞が次第に小さくなって、

 最後には口ごもってしまう。


 「覚悟は、おありですか?」


 どうしたんだろうって思ってたら、鷹槻さんはひどく厳しい顔で、

 しっかりと言葉を置いた。

 その重々しさに、私はゴクリとツバを飲み込む。


 「どんな覚悟ですか?」

 「真剣にならない覚悟です」

 「え? 適当に接すればいいってことですか?」


 拍子抜けして言い方が凄く軽くなってしまった。


 「いいえ。心にどんな感情が浮かんできても、それに正直にならない覚悟です」


 感情的になるなってこと?


 「そっそれは……」


 心臓が、ドキドキしてる。

 焦ってるっていうか、緊張してるっていうか―――――


 「寿がどんな状況になっても、一貫して同じことを言い続ける強さが、
 岡崎様にはおありですか?」


 まるで試そうとするかのように鋭いとさえ思える、厳格な言い方。

 運転する鷹槻さんから目をそらしちゃったのは、どんどん自信がなくなったから。