とうとうと流れる川の水のごとく切れ間なく滑らかに語っていた鷹槻さんが、

 そこで一度喋るのをやめた。

 私を見つめる二つの黒く澄んだ瞳。

 白い肌、高い鼻にシャープな輪郭。

 見られるだけでドキドキするほど綺麗な顔立ちをした鷹槻さんは、

 今にも消えてしまいそうなほど儚くて頼りない微笑みを浮かべる。


 「日本での時間は、寿に初めて与えられたプライベートな時間なのです」

 何で?

 どうしてそんなに悲しそうに笑うの?

 そんなに自分のしたことが許せない?

 何をしたの?

 どうして私に話してくれないの?

 喋ったら、きっと楽になるよ……


 「どうか……どうか寿を…………」


 心の底から押し出すような苦しそうな声。

 揺れる声は涙にさえ濡れそうで。

 頭を垂れてうつむく鷹槻さんの黒い髪は顔を隠してしまったせいで、表情が分からない。


 「わたくしは執事として、いえ………寿の心に寄り添うべき役目を負うとして
 最低のことをしてしまいました…………弁解の余地もありません…………」


 どうしよう。

 焦りと不安が動揺どころか私を狼狽させて、全然動けない。

 だって、鷹槻さんだ。

 鷹槻さんだよ?


 「岡崎様あなたしか……」


 名前を呼ばれてビクッとした私の視界の中に、僅かに潤んだように見える鷹槻さんの目が現れる。

 心臓に突き抜けるような痛みが走って、


 「あなたしかもう……寿には頼ることができません」


 震える声に、何て返したらいいのか分からなくて―――――


 「寿がわたくしのことを、どう思おうといいのです。ただ………
 ただ信用できる人間が、寿のそばにはいないから…………」


 私、どう答えればいいの?

 全然自信ないのに、鷹槻さんの代わりになりますなんて、言うの?

 無理だよ……

 弱々しくて、今にも崩れてしまいそうな鷹槻さんを見ていることができなくて、私は視線を落とす。


 「申し訳……ありません…………少し、失礼致します……」