二人とも経営者サイドの人間だもん。

 人をマスゲームの駒程度にしか、思ってないのかもしれない。


 「私にも心があります。いろいろあって、好きな人と別れることになって………」


 それは自分のせいでもあるけど、寿だって大きな原因の一つ。


 「今はすごい複雑なんです」

 「寿のことは、嫌いですか?」

 「きっ嫌いじゃないけど」


 ビックリして、心拍数が跳ね上がる。


 「寿にとって、信頼できる人というのは限られています。遊ぶ時間が多くありましたが、
 周りは“あの彩並家の御曹司”という目で見ますから、そういう意味では
 寿の人生において、プライベートと呼べるものが、ほとんどありませんでした」


 跳ね上がった鼓動が寿のこと好きかもって思ったときのドキドキと似てきて、

 だんだんからだが熱くなってくる。


 「ご存じでしたか? 去年、寿はアメリカで大学を卒業したんですよ」

 「えっ! 大学……」


 寿って年上なの?


 「内側からの期待や、外側からの目が気になっていたのかもしれません。
 急ぐ必要はないと言われても、
 余裕の表情で、これが自分のペースだと言っておりました」


 急ぐっていうからには、飛び級とかしたのかな。

 訊きたかったけど、鷹槻さんの台詞には切れ間がない。


 「日本でも寿は自ら彩並グループの次期後継者として自覚を持って生きているようですが、
 やはり重圧の面で、大きな差があるように、わたくしには思えます」


 住み慣れた場所と会社の権力から離れた日本の田舎に転校させた理由を、

 鷹槻さんは淡々と語っていく。


 「大学を卒業するまでは明確な学習の対象があり、学習したことには
 評価が下されますが、二度目の高校生では評価も大きな問題ではなく、
 学習の必要もありませんね」


 暗かった表情は少し回復したように見えるけど、まだいつものそれじゃない。


 「更に学生のうちは社会的な責任のほとんどを追わなくて良いことになっております。
 今後の人生でも、これだけの時間を自分の自由に使えることは、おそらくないでしょう」