鷹槻さんは受付で何か少し会話をすると、私を迎えに来て、

 それから無人のエレベーターに乗る。

 どこに連れて行かれるんだろう。


 「鷹槻さん、ここ、どこですか?」

 「彩並グループが経営するビルの一つですよ」

 「えぇっ!」


 ここがぁっ!

 すごい高いし大きいんだけど……

 ホテル経営だけじゃないんだ。

 グングン階が上がっていき、ついに最上階に着いたとき、

 鷹槻さんは私に微笑みかけた。


 「どうぞ」


 鷹槻さんの声が合図かのように、スルスル開くエレベーターのドア。

 徐々に広がる大パノラマ。

 何、これ…………

 吸い寄せられるようにエレベーターの中から出ると、

 斜陽がつくる光の世界に足を踏み入れた。

 だいだい色は黄金とは言えないまでも、充分すぎるほど輝いていて、

 見上げた青空の記憶を簡単に塗り替えた。

 建物の長い影はアスファルトを埋めて、世界を一足先に終わりの時間へと導いている。

 そんな黒とオレンジとが織りなす黄昏の予兆が、少しだけ寂しい。

 覆い被さる夜色を穏やかに押し返す太陽に、もうちょっと頑張って欲しいけど、

 天空のグラデーションには藍色の方が多く使われてるみたい。

 ぼんやりと大気に霞む果ての景色はひどく遠くて、円心に近づくほど色を失い、

 白とかわる夕暮れの儚さが目に痛かった。

 ゆっくり、ゆっくりと布を引っ張るように、幕を下ろすように身をひいていく夕陽が、まるで―――――



 月は星とともに輝くけど、星は太陽のことをどう思ってるんだろう。

 視界の端っこで一番星がキラキラ輝いてる。

 太陽がなければ星は輝かないけど、未練がましく夕方をつくるのは、うざったいのかな……



 「いかがですか?」


 いつの間にか隣りにいた鷹槻さんの声で、私はフッと我に返る。


 「綺麗だけど……ちょっと寂しいですね」


 鷹槻さんを見上げると、ほとんど表情が分からないほど辺りは暗くなっていた。


 「そう、思いますか……」