あとはもう俺の出る幕じゃねぇ。

 そう思って荷物を取りに教室へ戻ろうとしたら、

 新山がはしゃいだ感じで五十嵐と喋りながら歩いて来るのを見つけた。

 こりゃあホントに俺のことなんか忘れたな。

 いい兆候だ。

 そう思ったのは本心からだけど、美希のことを考えたら喜んでばかりはいられない。

 あの二人がこんな状況になってるのは、俺のせいでもあるんだから。


 「あ、寿クン。教室にミッキーいるよ~?」


 五十嵐と俺がいて、美希の話しをするとは相当だぞ。

 そう思って新山の顔を見たが、その微笑みたるや無邪気なもので、

 やっぱり美希が言うように、こいつの中には復讐なんて言葉はないのかもしれない。


 「マジか、サンキュー。五十嵐、また明日な?」

 「あぁ」


 軽く挨拶して二人と別れたら、本当に美希は教室に、

 ポツンと一人で取り残されたように座っていた。

 机を見つめて、ボーッとしてる。

 無視って帰ったら、コイツずっとこのまま、ここにいんのかな……


『あ、寿クン。教室にミッキーいるよ~?』


 一抹の邪心さえ感じられないほどの表情で新山は笑ってたが、

 今こうしてる美希を見ても同じ顔を―――――


 『これじゃ……ダメかな……』


 涙を目いっぱいにためながら無邪気すぎる笑顔で、

 じっと俺を見つめてた新山を思い出した。

 ペントハウスに新山を連れ帰った日、恋人にはできないから、

 泣いても最後に笑わなければ涙は拭いてやれないと言ったら、新山は言った。


 『これじゃ……ダメかな……』


 あれがキッカケで俺と美希のくだらないゲームは始まったが、

 一番ダメージを受けてるはずの新山が、今は無邪気に笑ってる。

 あのあと、新山は微笑んだままポロポロ涙をこぼしてたから、俺は涙を拭いてやった。

 知ってたはずだろ? 新山。

 俺が新山を恋愛の対象としては見られないって。

 お前はそれを理解したんだよな、だから笑いながら泣いたんだ。