「岡崎様でいらっしゃいますか?」


 第一声目とはちょっと変わった、朗らかな鷹槻さんの声。


 「そうですが」


 寿の奴っ、余計なことしないでよ!


 「本日六時過ぎに、もしかしたら岡崎様からお電話が入るかもしれないと
 言い遣っていたのですが、申し訳ありません。お伺いしたいこともございまして、
 お電話差し上げました。今お時間を少しだけいただいても、よろしいでしょうか?」

 「はっはい、大丈夫です」 


 断れるわけがない。


 「岡崎様のお話しというのは、どのようなご用件でしょうか?」

 「何でもないんです! 寿が勝手に言ってただけで、私は何も……」

 「そうでしたか……寿は何か岡崎様に申しておりましたでしょうか?」


 どうしてか、鷹槻さんの声のトーンがいつもより低い。


 「特に何も……」

 「最近、寿の周りで何かございましたか?」


 ちょっとだけ、不安そうに聞こえたのは気のせいかな。


 「私はあんまりよく……ごめんなさい、何も力になれなくて」

 「恐縮なさらないでください。寿のことが分からないのは、 
 わたくしの責任ですから」


 今さっきまで表れていたマイナスの雰囲気はすっかり消えた、

 すごく優しくて落ち着いた声で、慰められた。


 「岡崎様……一つ、お願いを聞いていただけないでしょうか?」


 だけどまたちょっと、弱々しい感じの口調になる。


 「お願い……ですか……」


 ふっと思い出したのは、星哉にふられた日のこと。

 鷹槻さんとデートしたんだと思ったら、顔が火照って、

 耳が熱くなって心臓がドキドキしてきた。


 「わたくしの名前を出さずに、寿に連絡を入れていただけないでしょうか?」

 「こっ寿に連絡ぅっ!?」


 全然別の想像をしてた私は、奥ゆかしい鷹槻さんの前で、

 はしたなく怒鳴ってしまった。


 「お手を煩わせてしまい誠に申し訳ないのですが………
 わたくしとは、目さえ合わせてくれないので、どうすることもできません」


 二人の間に、何があったんだろう。


 「寿は今どうしてるんですか?」