クソ、何で鷹槻の顔が出てくるんだよ!

 今は全然関係ねぇだろうが!!


 「お前らとつき合い短ぇから、俺は他のことよく分かんねぇ。
 でも夢花は梨乃と長いだろ? 卑怯なことするような奴だったのか?」


 夢花は何も答えない。


 「だったらそばに置いとかないだろう?」


 憧れと同じ土俵に立てるようになったら、嫉妬心が芽生えたっておかしくない。

 下から見上げてる人間からすれば、自分は劣等感の塊で、

 憧れの対象を見るときに、どうしようもなく非力に思えたりする。


 「どうなんだよ夢花!」


 夢花は眉を寄せ、口をキッと結んでうつむいてしまった。


 「夢ちゃんに……手に入らないもの………欲しかった……」


 消え入りそうなほど小さな音が談話室に転がった。


 「ごめんね……」


 うつむいたままの夢花に、梨乃の声はどう届くんだろう。


 「明るくてさ……元気でさ………面白いし、友だちいっぱいだし」


 長い間、梨乃の瞳に映り続けていた夢花の像が、静かに描写されていく。


 「料理も上手だし、体育も得意でしょ?」


 次から次へと口から出ていく夢花を褒めそやす言葉に、

 梨乃の激しい劣等感が読み取れた。

 こんなんじゃ、憧れの夢花に勝てたら、さぞ優越感だな。

 梨乃の場合は、自分の存在を肯定することにも繋がりそうだ。


 「それに比べてわたしは……」


 口ごもった梨乃の視線がストンと落ちる。


 「梨乃、優しいジャン……」


 ぽつりと夢花が吐き出した。

 心の奥から押し出されてきたような言葉を乗せているのは、

 穏やかで湿ったような声。

 夢花の声を聞いて、肺に溜めていた空気が、鼻から自然と外に出た。

 大丈夫だ、多分もう俺は必要ない。

 席を立って、談話室のドアを開ける。

 外に一歩踏み出したとき、保健の先生と目が合ったから、

 左の人差し指を立てて唇に当てた。

 先生は全てを理解したようで、黙ったまま仕事を再開した。