余裕の笑みを浮かべたが、梨乃の高校生活最後の数ヶ月が

  かかってると思うと、やっぱり俺にも少しの不安はある。


 『いつ何時も、彩並グループの看板を背負っていらっしゃることを、
 お忘れにならないようにお願いいたします』


 廊下を歩く俺の脳裏に朝見た鷹槻の顔が表れて、

 その声が鼓膜を撫でるように聞こえてきた。

 ウゼェな、あいつは涼しい顔して何もかもお見通しだ。

 このくらいのこと、しっかり片づけられねぇようじゃ

 経営者失格とでも言いてぇのかよ。

 日本の高校に初めて登校する日

 “自分がされて嫌なことは人にすんじゃねぇ”

 って知識ひけらかすように鷹槻が言った言葉が、さっきのテストに出た。

 マジで全てがあいつの手の上で転がってるようで、スゲェ不快だ。

 それこそ“己の欲せざる所、人に施すこと勿れ”だ鷹槻。

 イラつく空想が膨らみ始めたのは、鷹槻ならこうなる前に

 災害の芽は摘んだかもしれないと思ったからか。


 起こっちまったもんはしょうがねぇだろ!


 思考にツッコミ入れながら教室まで行くと、

 帰りのHR前のざわめきに満ちた室内をグルッと中を見わたした。

 目が合うと、夢花は俺の方に向かって歩いてきた。


 「どこ行ってたの?」

 「梨乃の家。話しあるから来い」


 緊迫した空気が俺たちの間に流れ始めたが、無視して俺は来た道を引き返す。

 夢花は黙ったまま俺のあとをついて談話室まで来た。
 テストを受けたその席に座ったままの梨乃は、

 入ってきた俺を一度見て、すぐに視線を下げる。

 瞬間的に嫌な空気が部屋に満ちたが、夢花を座らせるとすぐに俺は口を開いた。


 「最近さぁ、お前梨乃に冷たくねぇ?」

 「そっそう?」


 単刀直入に切り出すと夢花は動揺の色を露わにして答える。


 「全部梨乃から聞いた。そうする理由も何となく分かる。でもすぐにやめろ」


 目を見て言ったら夢花はすぐさま怒りを表に出してきた。

 「何で? 梨乃がそういう手使ったから、アタシだっていいじゃん」

 「たった一度を百も責めるのか?」