「わたし………何でいじめられてたか……分かった……」


 高校デビューで変わった世界が梨乃の目に、どんな風に映っていたかは知らない。


 「ああいうことしちゃうから………疎まれるんだ……」


 だが、世界はまた、良くも悪くも変わる。


 「わたしもう、学校行けないよ………」


 変化が怖いのか?

 梨乃の言葉が途切れた。


 「俺を、信用してないだろう?」


 確実に梨乃の心に届くように、俺はゆっくりと低く言った。

 おそらく梨乃には今、指針がない。

 今までいたのが自分の描く理想の世界だったかどうかは分からない。

 しかし、とりあえずは落ち着いていることができたであろう

 その世界が、壊れたんだ。

 ソファから立って梨乃の隣りに座ると、身体を抱き寄せる。


 「遊びはもう終わりだ」


 確かに梨乃は卑怯だけど、それはこんな目に遭わせていい理由にはならない。

 高校入学から梨乃が気づき上げてきた関係も、世界も、

 多分元には戻らないけど、俺は最善の努力をするべきだ。

 俺は梨乃が泣きやむまでそのまま胸を貸してやり、

 落ち着くのを待って学校に行く支度をさせた。






 「夢ちゃんきっと、怒ってるよ」

 「んなの気にしてたら何も始まんねぇだろ」


 リムジンの中で弱気発言ばかりする梨乃を励ますのに、実はちょっと疲れた。


 「信用しろって言っただろ?」

 「うん」


 学校が近くなればなるほど、梨乃の表情が曇っていく。


 「大丈夫だ。どうにかしてやる」


 円満解決が理想だ。

 夢花は気性が荒いからなぁ、できるか?

 できる、できるに決まってる。

 できなきゃ梨乃の高校生活が、多分ここで終わる。