「……うん」

 「だったらもう自分を責めなくていい。でも反省はしとけよ」


 梨乃はコクッとうなづいた、何度も、何度も。

 相当反省してんだな。

 優しい言葉でもかけてやろうとしたら、口を開いたのは梨乃だった。


 「わたし……高校デビューなの」


 話しはもう終わったかと思ったのに、梨乃はうつむきながら、

 か細い音に言葉を乗せていく。


 「中学生のとき暗くて、存在感薄くて、よく
 からかわれたり……いじめられたり、してたんだよ」


 紐を解いた玉手箱からゆるゆると漏れ出す白い煙のごとく、

 その声は梨乃を過去へ誘っているようだ。


 「そんな自分が嫌で嫌で、高校になったら絶対に変わってやろうって決めたの」


 弱々しかった声に、わずかに力がこもる。


 「私立だったら知ってる子も少ないから、絶対にうまくできるって思った」


 うつむく梨乃の表情がにわかに壊れ始める。

 そこで突然、梨乃が咳にも嗚咽にも似た音を吐き出した。


 「夢ちゃんは……わたしの……憧れだったのに……」


 鼻水をすすり、口元に右の拳を当てて、それでも必死に梨乃は言葉を紡ごうとする。


 「……これじゃぁ……もう……ダメだ」


 泣き出す梨乃を見ていたら、バラバラだった過去の記憶が一つの線で繋がっていく。

 夢花と梨乃の二人を連れ帰ったあの日、ベッドの上で

 すがって来ようとした梨乃の姿が、目の前で涙する現実と絡み始めた。

 するとマスカラ命、とでも言うようなギャルメイクだった梨乃が、

 ガラッと雰囲気を変えてきたときの顔が浮かんでくる。

 俺がギャル系より、おとなし向きの女の方が好みだってこと、

 こいつは悟ってたのか。

 初めて高校に登校した日と似たような気分だったとしたら、

 新しい世界が始まると思ったに違いない。


 「高校デビューしたのに……これじゃあ……また……おんなじ……」


 完全に受け身だと相手にされないことを悟って動き始めたとき、

 多分梨乃の世界は変わった。