迫ってくるドアに身体を少し引くと、ドアとの隙間から私服姿の梨乃が現れる。


 「どうしたの?」


 俺に問いかけするその微笑みに、普段との差はないように見えた。


 「それは俺の台詞だ。話しがある。中に入れろ」


 強引に家の中に通させると、梨乃は俺にリビングで

 待つように言って、自分はキッチンに消えようとした。


 「何もいらねぇから、そこに座れ」


 毛羽立ったソファに梨乃と向き合って座ると、再び俺は口を開く。

 下手な前置きは、流れる雰囲気が拒絶を示すだろう。


 「今日テストだぞ。何で学校に来ない」


 梨乃は黙り込み、自分の膝を見つめて動かない。


 「夢花に何かされてるだろ?」


 図星か?

 膝の上に握られた二つの拳が引き締まったのを見て取った。


 「今すぐ学校に行く支度しろ」

 「ダメ。今日は休むの」


 やっと反応が返ってきて、俺は内心ホッとする。

 だがそれは表に出さない。


 「何で?」

 「…………」

 「夢花のことなんか気にすんなよ」

 「夢ちゃんだけじゃない」

 梨乃の言動から、このことについて会話はできる状態らしいことが分かった。


 「そういえば、最近誰ともつるんでねぇな」

 「…………」

 「ハブられてんの?」


 喋りながら梨乃の反応を観察してたら、視線がどんどん下がっていった。


 「そっそんなんじゃないよ」


 女は怖い。
 生物学的に感情的だと証明されてるのに、計算高くて

 表面平和主義で、いろんなことを水面下でやってのける。


 「梨乃。話してくんなきゃ何もできねぇよ?」