「梨乃どうしたんだろうな?」

 「風邪じゃない?」


 しらばっくれてんじゃねぇよ。


 「お前の電話のあと、連絡してみたけど普通だったぞ」

 「そっそうなんだ。詳しいことは知らないよ」


 テメェ梨乃を陥れようとしてんだろ?

 学校に行って俺は梨乃を待っていた。

 登校すると言っていた梨乃だったが、授業が始まっても姿を現さない。

 血生臭いような、ドロドロした真っ黒な何かがうごめいている気がした。

 早いうちにケリつけちまわねぇと、大変なことになる。

 休み時間終了直前に男子トイレに行った俺は

 チャイムが鳴って人が出払うのを待ってから、梨乃に電話をかけた。



 出ねぇ、どうした梨乃。



 何度かけても、どれだけコールしても、梨乃は電話に出なかった。

 マジでヤベェんじゃねぇ?


 「お疲れ様です。お仕事中すみません。
 緊急なんで、学校まで車を一台手配してください」


 送迎担当をしてくれてるドライバーに連絡し、頃合いを見計らって学校を出た。

 今日の外出は確実に鷹槻の耳に入る。

 悪ければ、ジジイの知るところともなるが、そんなことを気にしてる場合じゃない。

 梨乃の家に向かわせると、運転手には時間の許す限り

 近くの空き地で待つように伝え、ベンツを降りた。






 黄ばんだ白壁に紺色のドア。

 玄関には傘立てと観葉植物のプランター。

 見上げた二階の窓にはピンクのカーテンが風を孕んで揺れていた。

 インターホンを押すと、中から誰か、出てこない。

 留守か?

 窓開けて?

 もう一度……


 二度……



 三度……



 「梨乃、いねぇのか? ドア開けろよ」


 引き下がるわけにはいかなかった。

 近所迷惑にならない程度に呼びかけ、梨乃のケータイをコールさせる。

 すると、トントンと木を叩くような音がし始めて、

 それが止まるとカチャリと玄関ロックが外れた。