彩並寿が転校してきて、一週間が経った。

 それは寿が珍しく一人だけで教室に入って来る五分前。

 奈々は依然としてあの通りだった。

 私から見たら、喋る機会は結構あったのに、まだ「おはよう」とさえ言ったことがない。

 ただ想いだけが膨らんで、


 「はう~ぅ……恋煩いに利く薬ってないのぉ?」


 辛そう。


 「そんなんあったら恋愛楽しくないんじゃん??」


 って言ったのは星哉。


 「いいよねぇ二人はさぁ、ラブラブで」

 「ラッラブラ……」


 奈々の嫌味にさえ、いちいち反応してるし、私。

 いい加減これはどうにかしたい。

 恥ずかしい。


 「ウチのおかげなんだから、手伝ってよ」

 「どうやって?」


 小学校からモテモテだった星哉は冷かしにも慣れっ子らしい。

 告白された日以外、照れたところなんか見たことないよ。


 「ホッシーはぁ、男の子でしょ~ぉ? 寿クンの親友になって?」

 「いや無理だろそれ」

 「なれるなれる~ぅ。ホッシーなら絶対なれるって」

 「無理だから」


 大人びた微笑を浮かべながらバッサリ切り落とす星哉。


 「じゃあいーよ」 


 奈々も最初から、そんな気なかったクセに。

 きっと奈々は凄く頭がいい。

 いろんなことを口に出すけど、知り合ってから六年目に入る今まで、核心に触れたことなんか、一度もないんだ。


 「そろそろ寿が来るんじゃない?」


 私が言ったら、奈々は背筋をビシッと正しちゃって。

 かっわい~ぃ。


 「声、掛けてみなよ」

 「無理、絶対無理ぃ」


 とは言いながら緊張してる奈々。

 どっかで覚悟してるんじゃないの?


 「あんまり時間経つと自己紹介を口実に声掛けるのも難しくなるぞ」

 「うん……」


 星哉の正論に奈々はぷぅっと頬を膨らめて、ぷしゅぅっと息を吐く。



 ガラ……



 あ、寿。

 彩並が教室に入ってきたと分かった次の瞬間、私は星哉と目を見合わせた。

 だって、一人だったから。

 取り巻きの女の子、いないんだもん。