見られない、星哉の顔が。

 中学生のときに食べられなかったクレープは、

 私の思い出である前に、奈々と星哉の思い出でもある。

 だけど星哉、行くなんて言わないで。

 ドクンドクンと騒ぎ立てる心臓の音が、どんどん思考をかき乱す。

 うるさいはずなのに、耳は外の音を拾おうと必死で、いろんな音が入ってくる。

 廊下に響く足音、机を運ぶ音に誰かを呼ぶ声。

 星哉は奈々とでも行くの?


 四年前をやり直す相手、私じゃじゃなくっても全然良かったの?





 お願いだよ星哉―――――





 「今日は無理だ」


 しっかりとした星哉の声が心臓に届くと、スーッと気持ちが落ち着いてくる。


 「明日は?」

 「明日も」

 「じゃあ暇なときに行こうね」


 星哉は何も答えない。

 奈々どうして?

 何でクレープにこだわるの?


 「星哉クン今日一緒に帰れる?」

 「いいよ」



 いつか言っちゃう、星哉が「いいよ」って。

 “クレープ一緒に食べに行くよ”って。


 「おい梨乃何してんだ? 置いてくぞ?」


 突然、寿の大きな声が、私のしんみりした世界を壊す。

 呼ばれた梨乃ちゃんは嬉しそうに笑いながら

 寿の集団に向かって、私の前を駆けて行った。

 昨日は電話くれたけど、寿は今日、私のことなんか、かまいもしない。

 いいんだけどね、そうなるようにしたのは私自身なんだし。

 そう、私なんだよ……

 もう見てない、誰も、私のことなんか。

 中学生のときは、見られるのが嫌だった。





 だけど今は―――――