自分の席に戻って女たちと会話しながら、たまに梨乃に視線を送る。


 「ね~、聞いてるのぉ?」

 「聞いてる聞いてる」

 「じゃあこっち向いてよ」

 「お前は俺の目まで束縛すんのか!」


 視界の中心を夢花に置くと、満足そうにうなづいた。


 「だったらブラウスの胸元、もっと開けとけ」

 「やぁだ寿くんエロい~」


 笑う気も起きなかったが、微笑してやると周りの雰囲気が良くなった。

 しかし梨乃はいっこうに席を立つ気配を見せず、

 放課後になっても俺に話しかけようとさえしなかった。



 おかしいだろ。



 「待て。どこ行くんだ?」

 「家に帰るんだよ」

 「一人で?」

 「そう。今日は気分転換なの」

 「梨乃はね~、優しい子なの。朝、卑怯な手使って
 一人占めしちゃったって、反省してるんだよ?」


 横を歩いてた夢花が絡めた俺の腕にしがみつく。

 ヒジが胸に当たったが、俺の脳が最優先事項は梨乃のことだと言っている。


 「マジなのか?」

 「うん。そう」


 躊躇いもなく梨乃が言って笑うから、俺にできることはなくなった。


 「じゃあ明日だな。気をつけて帰れよ」

 「うん、バイバイ」


 二人きりの車の中、やけに夢花のテンションが高い。

 車に乗ってからじゃなくて、一日を通して高かったような気がする。

 何故だ?

 梨乃がいないからか?

 疑問は明日に持ち越すこととなる。

 夢花を家まで送り届けると、そのあとはいつもと変わらずに時間が流れていった。

 わけじゃない。

 梨乃と夢花にかまけていて、気にする余裕なんか

 全くなかったが、私室に戻って思い出した。