案の定、危機感的中。

 夢花は一時間目終了後、いきり立って登校してきた。


 「梨乃! ちょっと来て!!」


 登校するなりコレだ。

 梨乃を見たらギョッとして、固まっている。


 「落ち着け夢花」


 何とかことを丸く収めようとしたが、俺のことなんか意識の外。


 「話しがあるのっ」


 ドスドス梨乃の近くへ行って、夢花は梨乃の手をつかみ、教室の外に出ようとする。


 「痛いから放してよ」


 夢花は梨乃の申し出を無視。


 「放してやれよ……おい夢花!」


 強めに言ってやると、やっと夢花は俺を振り返る。


 「寿くんアタシより梨乃のこと好きなんだ!」

 「今の状態じゃそうなるな」

 「ムカつく!!」


 梨乃の手を思い切り叩きつけるように放し、夢花は一人で立ち去った。

 こういうときは怒りを放出させてやるしかない。

 相手が冷静になってから話しを聞こうと、俺はいったん教室に戻る。

 チャイムが鳴って古典の先生が入ってきた。


 「子曰く、の子っていうのはですね、先生っていう意味なんですよ。
 孔子は孔先生っていうことです。昔は女の子の名前に使うような
 言葉ではなかったんですね」


 授業が始まっても夢花は戻らない。

 しかし一時間後にはクールダウンしたらしく、

 教室に入ると早々に俺の席の前に来た。


 「ジュース飲みたい。自販機行こ~」

 「一人で行けよ」

 「アタシにはつき合ってくれないんだ」

 「には、って何だよ?」

 「梨乃と朝二人で登校したんでしょ?
 アタシだって一人占めしたっていいじゃん」


 断ったらまた何か言われそうだったから、仕方なく折れてやる。