頭を支えるために首の後ろに置いた俺の手の平が

 小刻みな反応をとらえ始めた。

 飾りのメイクはすぐ剥げる。

 あどけないように見えた梨乃の唇も、ピュアそうに感じた上目遣いも、全ては演技。

 口の中をかき回す俺の舌に、梨乃は絡みつこうとしてる。

 そのせいで少し前の記憶が妄想的によみがえった。

 ベッドの上、喉の奥で高鳴きする夢花を隣りに見ながら、

 梨乃は負けじと自分を魅せようと、すがってくる。

 一対一の場面では問題にならないが、相手する人が複数いるときは、

 受動的な方が放置気味になるのは仕方ない。

 梨乃は夢花に比べ、受け身すぎた。

 でも今は、梨乃しかいない。

 こいつはこれから、どんな顔を見せるんだ?

 背もたれの力を借りながら、俺は梨乃の身体を傾けていく―――――






 「急ブレーキを踏みますので、ご注意ください」



 いやに冷えた鷹槻の声がスピーカーから流れてきた。

 あの野郎、予告して急ブレーキ踏む奴がどこにいる。



 ぴちゃ………



 首裏に回した手を下ろすと、唇が離れた。

 酔ったように紅く染まる梨乃の頬。

 トロンとした瞳が口惜しそうに俺を見つめている。

 唾液に濡れた唇は艶っぽく光っていたが、もう、何も感じない。

 俺は手の甲で、自分の顔に流れ伝った唾液を拭いた。








 学校に着いたら、奇妙なことが起こった。

 俺のケータイをバイブさせたのは休みのはずの夢花。

 休みのくせにこんな早くから電話してくるのか?


 「今日どうしたの? 遅刻?」

 「俺は学校にいるぞ」

 「えっ! 何で」


 「休みなんだろ?」

「誰がそんなこ……あぁ、なるほどね。アタシ今から登校するから」

 怒りを押し殺したような声でそう言うと、夢花は電話を切った。




 …………何か……ヤバくねぇ?