『フィアンセに愛想尽かされて終わるぞ』


 のしかかられてイラついて、やっと逃げられたとき

 そう言ったら、琴音は顔を曇らせた。

 でも


 『寿がいじめるぅ……心貢~……』


 っていつも通り茶化したから、俺はそれが琴音の強がりだとは気づけなかった。

 他にもいろいろ言ったぞ、俺は。

 何で琴音はここに来て、ここに住んでんだ?

 ジジイんとこ行きゃ部屋たくさんあるし、身の回りのことは何でもして貰える。


 『いいじゃないっ! 結婚しちゃったら、
 もうこんなことできないかもしれないのよっ!!』


 マジで俺とスキンシップを…………?




 いやいや、あれは過激すぎるだろ。

 でも……あれが琴音が考える

 “普通の姉弟のスキンシップ”だとしたら?

 俺は拒絶しまくって、相当琴音を傷つけたことになる。

 ちょっとくらいつき合うべきだった……

 今気づいても遅すぎて、琴音の涙はまだ止まらない。

 あそこに行って、俺は鷹槻の代わりに慰めるべきなんだろうな。

 口をキッと引き結び、ソファの近くへ行った。

 気配を感じた鷹槻が俺を見上げる。


 「代わる」


 鷹槻は見たこともないような穏やかな表情で、俺に微笑みかけた。


 「このままで、いさせてくださいますか?」


 柔らかく、優しく紡ぐ鷹槻の声が、俺の良心の呵責を少しだけ和らげてくれる。

 申し出た俺を立てて、琴音のためではなくて、

 自分がそうしていたいのだと、鷹槻は伝えてきた。

 何となく思った。

 鷹槻は琴音の気持ちを、全部受け止めてやろうとしてるんだと。

 こいつには叶わねぇって、唐突に思った。

 俺は反対側のソファに座る。

 次第に琴音の声が小さくなってきて、ときおり鼻をすするような音が混じり始めた。


 「何ですか?」