参ったな……

 予想外のことが起こった。

 っつったって、勝負を挑んできた向こうも悪い。

 確かに振り回しはしたけど、新山とは結構真摯にやってきたつもりだったし……

 言い訳だなこれは、男らしくない。

 どうしたもんかと私室にこもって考えあぐねていたら、

 うるさい女がドアを蹴破って入ってきた。


 「た~か槻ぃっ! 連れ出せぇっ」

 「何よ突然!!」


 ギョッとしたような顔の琴音を鷹槻は手早く俺の部屋から連れ出した。

 騒ぎながら出て行く琴音。

 今日は相手なんかしてらんねぇ。


 「何よーっ! 何なのよーっ!! 薄情すぎるわ。それでも弟っ?」


 俺が薄情なんじゃなくて、お前が勝手すぎるんだろ?


 「いいじゃないっ! 結婚しちゃったら、もう
 こんなことできないかもしれないのよっ!!」


 何で防音じゃねぇんだよ、この部屋は!

 わーわー琴音が騒ぐから、黙らせようと俺は私室の外に出―――――




 おっおい……

 マジ……かよ………



 正直、ビビッた。

 サーッと血の気が引いて、動けなくなる。



 だって、琴音がマジ泣きしてたから。

 ヤベェ、スゲェ傷つけた。

 俺が追い出したこと、そんなにショックだったのか?

 鷹槻は子どもみたいに泣きじゃくる琴音を自分の横に座らせて、肩を抱き寄せる。

 泣き声だけになった琴音の声がくぐもった。

 琴音はもう本当に自分の身体を押しつけるかのように

 鷹槻にすがりついて、ただ、泣いている。

 そんな琴音の姿を見ていたら、俺が言ったいろんな言葉が

 自分の中によみがえってきた。



 『まだ六時半だろうが。テメェのドコが乙女だよ』

 『ひとりぢゃサミシイの……お・ね・が・い』



 そんな会話をしたのは、琴音がここに来た日。