「俺、結構遊んできたけど、それはそれなりの
 相手とだった。恋愛するのは面倒だから」


 面倒なんじゃなくて、きっと唯夏さんのこと

 忘れられないからだって、私は勝手に解釈する。


 「美希には、マジで悪かったと思ってる。だけど新山と
 つき合ったままってわけにはいかなかった。あいつは
 遊びと本気を分けられるほど、器用な女じゃないから」


 見たこともない寿の顔。

 奥歯を噛み締めて、眉頭を寄せて、少しだけうつむいている。


 「迷惑かけたな。それは認める」


 そんなこと言われたら、私はどうすればいいのか分からなくなる。


 「新山は俺のこともうどうとも思ってねぇんだよな?」


 どう、答えればいいんだろう。

 YESなんて言ったら、いくら遊び人の寿だって傷つくよね。

 奈々のこと“特別”だって思ってるんだから。


 「分からない」

 「多分、どうとも思ってねぇな。五十嵐になびいてんなら……」


 寿の表情は曇ったりしなかったけど、視線は下がったまま


 「それか……もしかして、美希への仕返し」

 「しっ仕返しぃっ?」


 思ってもみない言葉が出てきて、私は両目を見開いた。

 寿は真面目な顔をして私を見つめている。 


 「新山は美希に俺を盗られたと思ってるんだろ?
 だったら充分ありえる話しじゃねぇの?」

 「なっ奈々はそんな子じゃないよ」


 明るくて可愛くて華奢で、か弱くて、助けてあげないと、

 あっという間に転んで泣き出しちゃいそうな女の子。


 それが奈々だもん。


 「奈々は私のこと親友だって言ってくれたし、
 仕返ししようなんて、考えるはずないよ」

 「怖いぞ、女ってのは」


 実体験に基づいてるからか、私の偏見がそうさせるのが、

 ずいぶん説得力があるように聞こえた。


 「他人だったら許せるけど、親友だからこそ
 許せねぇってのも、あるしな」


 奈々を信じてないわけじゃないのに、だんだん不安になってくる。