コイツが私にちょっかい出さなければ、何もかもうまくいってたのに。

 寿は遊びのクセに……

 私は星哉と本気でつき合ってたのに……

 そりゃあ、寿のこと、ちょっといいかもって思ったけど。

 本当に、ちょっと。


 「どうしてくれるの? ずっと好きだったんだよ?
 やっと……両思いになれたのに」


 喉の奥が苦しくなってきた。


 「悪かったな」

 「悪かったじゃないっ!」


 そんなことじゃすまされない。


 「どうすればいい?」

 「今更どうにもなんない。全部説明したって、
 奈々と私の仲を裂くだけだよ」


 自分の中だけでぐるぐるしてて、誰にも言えなかったことが

 口からどんどん溢れてくる。


 「星哉だって、私なんかより奈々の方が好きに決まってる」


 奈々は可愛いし、性格いいし。

 星哉モテるから、奈々みたいな女の子とつき合う方が釣り合ってる。


 「新山と五十嵐と比べて新山を取ったのか」

 「違うよ! せめて今までの関係を続けられるようにしたかったの」


 昔からつき合ってた、本当に大切な友だちだもん。


 「…………俺にできることは?」

 「ない」


 寿は少し切なそうに笑った。


 「寿は今、奈々のことどう思ってるの?」

 「特別」

 「それ、どういう意味?」


 寿は太ももの上に腕を置き、手を組んで、

 前傾姿勢になりながら語り始めた。


 「俺、残像追っかけてんだよ……新山は唯夏に似てる。ふとした瞬間の
 表情とか、言葉遣いとか……たまに喋り方も似てるな」


 組んだ手を見つめる切なげな表情が、わずかに柔らかくなった。

 私は唯夏さんのこと、ちょっとしか見たことないから分からない。


 「唯夏は新山と違って、かなり快活だけどな」


 少しだけ微笑した寿の顔がひどく頼りなく見えて、私まで切なくなった。

 好きなんだ、心から唯夏さんのこと……