そろそろ七月になる。

 梅雨のまっただ中で、植物園の中みてぇな蒸し暑い日が続いている。


 「寿くんさぁ……好きな子とかって、いるの?」


 人気ない場所に呼び出しといて前置きはいいって夢花。


 「俺はそういうのつくらない」


 夢花は黒くガッチリ縁取った、力のありすぎる目を見開いた。

 実家で化粧品つくってるから、どうしても人の

 化粧を見るクセがあるが、なるべく何も思わないようにしてる。

 しかし、これはどうしても言いたい。

 アイメイクがキツすぎる。


 「新山さんは?」

 「遊びでいいっつーから、つき合っただけ」

 「それなのに、彼女扱いしてたの?」

 「一応彼女だからな」


 特別扱いして二人でいた方が、大勢を相手にするより楽だし。


 「アタシも遊びでいいって言ったら、彼女にしてくれる?」

 「別にいいけど」

 「じゃあ、彼女で」


 夢花は何の遠慮もなく俺の顔見て笑った。

 こいつは美希に言葉リンチかけたから、俺が脅した奴だ。

 出しゃばりだし、ギャル系だし、あんま好みじゃない。



 …………まいっか。



 すっかり彼女気取りで、夢花は腕にからみついてきた。


 ………………後悔……しないよな?


 廊下を歩ってるといろいろ視線を感じるが、どうやらそれが

 優越感らしくて夢花は俺の顔ばっかり見てニコニコしてる。

 愛想笑いしなきゃならない俺の身にもなれ。

 疲れる。


 「梨乃~っ!」


 教室に入るなり、夢花が友だちの名前を叫んだ。

 俺は珍獣かっつぅんだよ。

 先が思いやられるが、彼女にするって言っちまった以上は仕方ねぇ。


 「夢花、明日弁当つくって来い」

 「分かった~ぁ」


 こういう聞き分けがいいのも最初のうちだけだってことを、俺は知っている。


 「俺の女になったんだから、俺の口に合うものを研究しろよな」