「図太ぇ神経してるクセに」

 「ひどいわね。普通の男だったら許さないわよ?」

 「寿様、琴音様、お夕食の準備ができました」


 小悪魔的に笑った琴音の言葉のあとに、鷹槻が少し

 棘のあるような、かしこまった台詞を投げてきた。


 「サンキュー」


 俺は言ってから振り返り、鷹槻の横を通過して

 レストランから料理を運んできてくれた連中の近くへ行く。


 「いつもありがとうございます。毎日美味しくいただいていると、
 シェフにもよろしくお伝えください」


 このところスタッフが出て行ってから

 ここへ来るのが殆どで、挨拶も満足にできていなかった。


 「ありがとうございます。そのように申し伝えておきます。
 どうぞ冷めないうちに、お召し上がりください」


 いい笑顔でスタッフは俺に言葉をくれた。




 気持ちよく仕事ができなくちゃならない。




 自由奔放なジジイと、いつまで経ってもファザコンみてぇな親父が、

 耳にタコができるくらい俺に聞かせたこと。

 会社がサービスを提供しようとする人の前には従業員がいて、

 そいつらが会社を動かすのだと。

 だから会社を好きになって貰わなければ原動力がなくなって、

 たちまち動かなくなる。

 会社を好きにさせるには、まず、

 いい職場を提供してやることだ。

 二人はそんなことを言ってたけど、

 俺にはまだどうすればいいのか分からない。

 単純なことほど、やってみると難しい。

 でも二人にできて俺にできねぇことはねぇ。

 同じ血が流れてるし。



 俺は俺なりのやり方でやっていくって決めたから、とりあえず、頑張る。



 それだけだ。