食いたくもねぇ朝飯を腹ん中に流し込むと、胃がむかむかしてくる。

 だが、平然としてなければならない。

 そうじゃなきゃ助手席で監視してるはずの鷹槻が、後部座席に乗り込んでくるだろうからだ。

 あれから二週間経つが、鷹槻とは気まずい雰囲気が流れている。

 向こうは気にしてない風を装ってるが、あんなことがあれば誰だってしこりは残る。

 仮にも雇い主サイドの俺に、あんな口調で怒鳴ったんだからな。

 車が停まり、リムジンのドアが開けられた。


 「鷹槻さんいくつなのぉ?」


 女の声が外から入ってきた。

 鷹槻は、この学校でも女に人気だ。

 すらりと長身で愛想はいいし、物腰も穏やか。

 面長で鼻筋は通り、美形な上に長方形の細いメガネが頭のキレる男を強調。

 鷹槻目当てで俺に話しかけてくる女もいるくらいだから、隅に置けねぇ。

 アスファルトに立つと、鷹槻と目が合った。


 「いってらっしゃいませ」


 軽く鷹槻が頭を下げる。


 「お前も仕事頑張れよ」


 俺が朝ちゃんと起きて、飯も食うようになったら、朝はたったこれだけのドライな関係になった。


 「寿クンおはよ~っ」

 「おはよう」


 変わらないのはここからだ。


 「コレ自分でつくってみたんだけどぉ、良かったら食べてみて?」


 昼休みに梨乃が弁当箱を俺に突き出した。

 うっとうしいだけの女どもだったが、最近は“だけ”じゃなくなった。

 まぁ、可愛いとこもあるよな。


 「色合いとか、いい感じじゃん」


 俺は楊枝を貰って卵焼きを食った。

 これはオーソドックスな料理で、余計なもん入れなきゃ黒焦げじゃねぇ限り食える。

 甘ぇっ! 何で砂糖入れるんだよ。

 ってことは日常茶飯事だが。


 「いんじゃね?」

 「ほんと~! 超嬉しいんだけどぉ」

 「アタシのも食べて」


 うわっ、こっちはもっと甘ぇじゃん。